第一夜 “箱”

トランジスタラジオが梅雨明けを告げた。
昨日までの女のぐずりのような天候は死んだらしい。
これからは太陽がアスファルトの蟻を焦すのだろう。

日が沈み一日の仕事を終えた男は部屋に戻ると
いつものように窓を開け水を浴びた。

繁華街の喧騒が夏の湿度に覆われている。
見上げれば夜空の星も息絶え絶えだ。

男は全裸のままで鏡の前に立ち。
パナマ帽を被るとブリムの角度を念入りに調節した。

優先順位は下着や服ではなく常に帽子だった。
生活に必要な全ては筋肉質のタフな肉体だけだ。
それを隠すシルクのシャツなど最後に着ればよい。

準備を終えると男はおもむろに
首をかしげマッチで紙巻タバコに火をつけた。
紫煙が電球の灯りの下で渦巻く。
それを横目で見ながら男は部屋を出た。

与えられた今夜の使命は
空港に届いたブツの受け取りだった。
梱包された中身は制限時間を超えた場合
安全保障の対象外となる。

男はフィルターぎりぎりまで燃えた咥えタバコの
断末魔を感じながら小さく呟いた、
「髪が乾く前に戻る自信があるぜ」

ガレージのランボルギーニは
薄暗がりの中で相変わらず低く構え、
睨むような目つきで待っていた。

エンジンに火が入ると獣のようなそれは
ガラス戸を破損寸前に追い込むほどの咆哮をあげ、
流れ星のような速度で走りはじめた。

かくして時計の長針がほんの数回だけ回った今、
誰もいない深夜のビルのエントランスには
男が運んだ大きな箱が鎮座している。

正面には「LIVE TROPICAL」と印刷されているが
その後ろに大きく殴り書きされた「X」の文字が
送り主の恐怖の度合いを象徴しているように見える。
この中には一体何が収められているのだろうか。

漆黒の闇に包まれた南国のような夜、
いよいよ秘密の封印が解かれることになる。
尋常でない緊張感があたりを包んだ。

……続く……

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